八月の石にすがりて  伊東静雄
八月の石にすがりて
さち多き蝶ぞ、いま、息たゆる。
わが運命(さだめ)を知りしのち、
たれかよくこの烈しき
夏の陽光のなかに生きむ。

運命? さなり、
あゝわれら自ら孤寂(こせき)なる発光体なり!
白き外部世界なり。

見よや、太陽はかしこに
わづかにおのれがためにこそ
深く、美しき木蔭をつくれ。
われも亦、

雪原に倒れふし、飢ゑにかげりて
青みし狼の目を、
しばし夢みむ。


 夏を歌った詩人といえば、伊東静雄をすぐに思い出す。静雄の夏の詩を読んでいると、夏を生きることのなんたるかがよく了解される。「夏には、感傷的になっても、弱り果てた気持がおこらぬのは、いいことです。物をみつめる気持になれるのも助かります」という静雄のことばのとおり、この「八月の石にすがりて」では、生命と同時に死が歌われている。この詩は、炎天下の大阪の街を三日三晩歩き回って書き上げられたものだという。(文責・岡田)