屈折率  宮沢賢治
七つ森のこつちのひとつが
水の中よりもつと明るく
そしてたいへん巨きいのに
わたくしはでこぼこ凍つたみちをふみ
このでこぼこの雪をふみ
向ふの縮れた亜鉛の雲へ
陰気な郵便脚夫のやうに
  (またアラツデイン 洋燈とり)
急がなければならないのか


 「今週の詩」というと、なにやら「名詩」の類を紹介するもののように思われるかもしれないが、そういう心づもりはあまりない。なるほど、当初は、明治以降の詩をとりあえず編年的に読んでいこうという方針のようなもがあるにはあったが、どうもそれだけではもたないところがある。だから、もうそういう枠は取っ払って、気楽に、そのときそのときの気分で、詩を読んでいこうと、いつしか思うようになっていた。関心は、基本的に、「近代/詩」に向いていることに変わりはないのだが。
 このところ、まとめて読みたいと思うのは、宮沢賢治の詩である。ただ、賢治の詩は長いものが多く、また、ルビも多いので、この画面上で紹介できる詩も限られてくる。例えば、上記の詩では8行目の「洋燈」に「ラムプ」というルビがつけられているが、このルビを( )表記すると( )が重なり、実に美しくない(今回はルビなしとした)。
 ともあれ、「向ふの縮れた亜鉛の雲へ」「急がなければならないのか」。まずは、この詩をもって、『春と修羅』の詩作が開始されたことを確認したい。(文責・岡田)