落葉  ポオル・ヹルレエヌ(上田敏訳)
秋の日の
ヸオロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
こゝかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉(おちば)かな。


 明治38年(1905年)、上田敏著『海潮音』が刊行された。「近代詩壇の母はまさしくこの人である」とは、北原白秋が上田敏について語ったことばであるが、これは真実であると思う。藤村島崎春樹の「心の宿」、有明蒲原隼雄の「妄執」、柳村上田敏の「訳詩の覚悟」を解明することができれば、いまにつながる日本近代詩のひとつの像をつかめるのではないだろうか。
 『海潮音』を読むとき、驚かされるのは上田敏の豊富な語彙である。その日本語が敏一流の詩句に乗せられるとき、「限りなき韻律と色彩の薫り」が「紙上に燻きこめ」(白秋)られるのは必定であった。この「落葉」(原題は「秋の歌」)は人口に膾炙したものだが、稀代の名訳としかいいようがない。(鈴木信太郎訳の『ヴェルレーヌ詩集』でも、「秋の歌」「よくみるゆめ」の二篇は、上田敏訳のものが収録されている)この一篇を入口にして、『海潮音』を読み進めれば、夜はあっというまに更けていくだろう。(文責・岡田)