若菜集 序詩  島崎藤村
こゝろなきうたのしらべは
ひとふさのぶだうのごとし
なさけあるてにもつまれて
あたゝかきさけとなるらむ

ぶだうだなふかくかゝれる
むらさきのそれにあらねど
こゝろあるひとのなさけに
かげにおくふさのみつよつ

そはうたのわかきゆゑなり
あぢはひもいろもあさくて
おほかたはかみてすつべき
うたゝねのゆめのそらごと


 いま、島崎藤村は読まれているのだろうか。『若菜集』、冒頭の序詩に立ち止まり、繰り返し読む。そして、山村暮鳥詩集『三人の処女』に寄せた序文で「情人を愛するごとく、私は詩を愛し、情人に別るるごとく、私は詩に別れた」と書いた藤村のことを考える。『若菜集』は明治30年(1897年)、『三人の処女』は大正2年(1913年)。ふたつの詩集の間に流れた時間を考える。(文責・岡田)