秋の入日  国木田独歩
要するに悉(みな)、逝けるなり!
在らず、彼等は在らず。
秋の入日あかあかと田面(たのも)にのこり
野分(のわき)はげしく颯々(さつさつ)と梢を払ふ
うらがなし、あゝうらがなし。

水とすむ大空かぎりなく
夢のごと深き山々遠く
かくて日は、あゝ斯(か)くてこの日は
古も暮れゆきしか、今も又!
哀し、哀し、我こころ哀し。


 国木田独歩(1871・明治24年―1908・明治41年)が書いたいくつかの詩を読む。「秋の入日」は、死の一年前に書かれたものだが、冒頭の一行、とりわけ「要するに」の一語が語るものは深い。あの「山林に自由存す」に明らかなように、独歩は「遠く」を観る人であった。独歩が観ようとしたその「遠く」は、いまも存在していると思いたい。(文責・岡田)