砲塁  丸山薫
破片は一つに寄り添はうとしてゐた。
亀裂はまた微笑まうとしてゐた。
砲身は起き上つて、ふたたび砲架に坐らうとしてゐた。
みんな儚(はかな)い原形を夢みてゐた。
ひと風ごとに、砂に埋れて行つた。
見えない海――候鳥(こうてう)の閃き。


 この「砲塁」は、「みんな儚い原形を夢みてゐた。」という一行につきるだろう。この詩を読むとき、立原道造の「石柱の歌」の一行「私は おきわすれられた ただ一本の柱だ」が思い出されてならない。「どんな建築であっても、その廃墟になった結果まで考えて、建築を考えなければいけないと思うのです」とは、立原道造のことばであるが、この一行もまた、「原形を夢みてゐた」のではないだろうか。(文責・岡田)