小鳥   北原白秋
小鳥は飛ぶ、彼はその飛ぶことすらも
曾て悟らざるがごとし。
小鳥は飛ぶ、金色の光に飛ぶ。

小鳥はただ飛ぶ、形なき一線に飛ぶ。
さながら翼(はね)つけし独楽(こま)の
とめてとまらぬその迅(はや)さ。

かぎりなき大海の上、
ただひとつころがれる日輪の
朱紅(しゅべに)の円(まろ)さ。

小鳥は飛ぶ、一線にその面(めん)を横ぎる。
かなしくも突き抜けむとす。
小鳥はこの時まさしく小鳥の姿となる。


 鳥が「形なき一線に」飛ぶ、その過渡が歌われていて、味わい深い。白秋自身、この時(大正9年頃)、その過渡を生きていたのだろう。(文責・岡田)