エスペラントを学ぼうとしない恋人に  ウィリアム・オールド(臼井裕之訳)
きみはエスペラントをやろうとしない
それでもいいさ 理由は分かっている
エスペラントがぼくの口を突いて出ると
きみはすっかりご機嫌斜め

そうさ そんなとききみが一瞬、息を呑むのを
ぼくが知らないとでも思っていたのか
きみはエスペラントに嫉妬しているのさ
半分ずつ 分け合わないといけないのだから

でも考えてごらん 些細なことに
執着してもしょうがない ザメンホフ先生の
模範文例集にでも 取り組む方がましさ

そうすれば きみは今よりいっそう人間らしくなる
ぼくに対立するのではなく 共感するようになる そして
何より ぼくの書いた詩を読めるようになる


  *模範例文集 1894年に第一版が出版された、ザメンホフが著した42課からなるエスペラント入門用の例文集


 新しくスタートする「今週の詩」では、日本の近現代詩を中心に様々な詩を紹介していきたいと考えていますが、第一回は、小社の新刊、『ウィリアム・オールド詩集―エスペラントの民の詩人ー』巻頭の一篇としました。
 一読、誰にでもわかる詩ですが、ことばは幾重にも屈折していて、ジョン・ダンの詩を思い出させるところもあるようです。まあ、でも、この詩に解説は不要で、読者がそれぞれの読み方で楽しむことができる詩だと思います。
 ウィリアム・オールドについては、下記新刊告知をお読みください。また、エスペラントについて詳しく知りたい人には、最近刊行された、田中克彦氏の『エスペラント』(岩波新書)をおすすめします。