誌の雑誌 midnightpress 30
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2005年 冬 30号(2005年12月5日発売)



【主な内容 】

●詩作品 大岡 信 三井葉子 正津 勉 阿部恭久 倉田比羽子 大島憲治 糸井茂莉 井田秀樹 須永紀子 小林レント 藤原安紀子 マツザキヨシユキ 田中エリス 川田絢音 谷川俊太郎 竹内敏喜小誌集 
●「詩の教室」からデビュー
岡田すみれこ小誌集 小橋みき小誌集
●連詩 「島」FARM
●poetic dialogue瀬尾育生×稲川方人「詩が引き受けるもの」
●連載対談26 谷川俊太郎+正津勉 ゲスト/田村さと子
「ラテンアメリカの詩人たち」
●midnight book review
新倉俊一 「徂徠とパウンド—『白紵歌』マージナリア」
八木忠栄 「人間の危機と詩 井上輝夫『冬 ふみわけて』に沿って
●詩の教室 高校生クラス・清水哲男 一般クラス・松下育男
●連載  井上輝夫 ハルノ宵子 高取 英 佐々木安美 小林レント 八木幹夫 マツザキヨシユキ 根石吉久 松岡祥男 馬野 幹 

■表紙タイトル文字/谷川俊太郎
■表紙「彗星」・目次・本文イラスト/永畑風人
■表紙・目次デザイン/片山裕
■写真 野口賢一郎




「詩の雑誌midnight press」30号をお届けします。これまで、一号一号、発行するごとに感慨を覚えないわけではなかったが、それだからといって感慨の塔が建てられたわけでもなく、いいかげん感慨に飽いてしまったところもないわけではないのだけれども、こうして30号までたどりついたことについては無心に感慨にふけりたい気分ともなる。記念になにか特集を、と考えないわけではなかったが、なによりも、一篇の詩を、と謳う小誌としては、小誌が本来のあり方を追求する途上になおあることを示すことができれば、それでよしとした。■こういってよければ、小誌の「第一期」は終わったのだと思う。これまでのやり方では前に進めないのだから、さらに前に進もうとするときは、それなりの方法を選択しなければならない。思えば、詩とは、ことばで、ことばを超えていくもの(こと)の謂ではなかったか。いま、僕はそれをあこがれと呼んでいいとさえ思う。■長らく続けられてきた瀬尾育生・稲川方人両氏の対話は今号でひとまず終わりとさせていただく。一瞬の弛緩もなく、詩について語られたこの対話の強度はひとつの奇蹟であり、僕自身、学ぶところ大であった。最終回では、詩の、世界の<現在>と、どう向かい合うかが徹底的に語りつくされたように思う。この対話は、来年、単行本化される。瀬尾さん、稲川さん、長い間ありがとうございました。■田村さと子さんのお話を伺っていると、閉塞状況を超えていく第三の途(オルタナティヴ)ということば/像が立ち上がってくるようであった。31号からは、少しでも小誌の新しい顔を見せることができればと考えている。これまで御支援いただいた読者のみなさん、執筆者のみなさん、広告出稿のみなさんに御礼申し上げますとともに、今後、さらなる御支援をたまわりますよう、お願い申し上げます。(お)

 


詩作品のなかから

サウナと湖水——フィンランド紀行


大岡 信

タフモを去つてカヤーニへ——
途中 別の湖水のほとりで
サウナにつかる

パンパンと白樺の枝で皮膚をしめつけ
冷たい湖水にとびこむ
筋肉をぎゆうと引き緊め
解放する

もう音楽は からだから消えた
碧空(あおぞら)へのあこがれだけが 残つてゐる

鴨といつしよに
素つ裸で泳ぎながら
岸辺の友だちと ひとしきり
性的な冗談を 大声でどなり合ふ

男つ気も女つ気もない 大空のもと
それでゐて 中性的でもなく
肌はぞくぞくしてゐる 女よ 来い
宇宙とぢかに交接(まじは)る気分
至高の境地だ 音楽の

気がつけば
大声で冗談を言ひあつてるのは
この土地の髯もじやの
神々だった。