詩の雑誌 midnightpress22

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2003年冬22号(2003年12月5日発売)

【主な内容 】

●北の詩人 金聖ミン(ソンミン)小詩集「夢の故郷」
●詩作品 阿部日奈子 根本明 日和聡子 いとう 関富士子 二沓ようこ 江森國友 北川浩二 ●連載詩 三上寛 元山舞
●アンケート 詩の必読書ベスト3/小池昌代 飯島耕一 須永紀子 井上輝夫 清水鱗造 正津勉 藤井貞和 鈴木志郎康●新連載 インコ・コツコツ・スキャンダル/田中エリス
●連載 詩想の泉を求めて3 井上輝夫 /白紵歌2 飯島耕一
●連載対談18  日本の詩を世界の読者に 谷川俊太郎+正津勉 ゲスト/リース・モートン
●poetic dialogue 転換期の詩法 瀬尾育生×稲川方人
●平居謙の「ごきげんPOEMに会いたい」 ステージ2  詩は黄金のうんこなり! 夏目ゆき の巻 
●素顔の金子光晴11(最終回)「反戦」というよりも「反骨」の詩人/松本亮
●近代詩の通い道8「足はくろずんだ杭」──犀星の晩年
●詩の教室 高校生クラス 清水哲男 一般クラス 川崎洋
●その他の執筆者  大澤恒保  長谷邦夫 高取英 ハルノ宵子 松岡祥男  根石吉久 八木幹夫

 
■表紙タイトル文字/谷川俊太郎
■表紙「世界の靴」・目次・本文イラスト/永畑風人
■写真 野口賢一郎


今号は巻頭に、″北の詩人″金聖ミン(キム ソンミン)氏の小誌集「夢の故郷」を掲載した。金聖ミン氏の詩が日本で紹介されるのははじめてのことである。翻訳していただいた金容権(キム ヨンゴン)氏に御礼申し上げます。■金聖ミン氏は、「父が果たし得なかった郷土詩人たらんとして、険しい詩人の途を、私は今日も歩んでいる」と書いているが、金氏の詩を読んでいると、その「険しい詩人の途」が見えてくる。同じく詩を書く者として、詩人へのシンパシィを覚えた。■そして、北島の言葉を思い出した。即ち、「詩人というものは元来、詩を書き始めた日から亡命の道を歩むものです。ある意味では、詩と亡命は同意義の概念であります」■エグザイルであるがゆえに、はげしく夢見られる「故郷」への思い──これは、国家を超えて、歴史を超えて、<起源>を尋ねる永遠の物語でもある。新しい世紀を迎えたわれわれ一人ひとりが、いま、あらためてその物語と向かい合っている──われわれは、どこから来て、どこへ行くのか──ことを、金聖ミン氏の詩は告知しているようだ。■また、今号では、「詩の必読書ベスト3」というアンケートを企画した。寄せられた回答は、詩を、歴史を、世界を大きく捉えなおす示唆に満ちたものだった。このほかにも、リース・モートン氏の話など、まさしく大いなる転換期を生きるわれわれの現在が浮かびあがってくる誌面となったように思う。20号を越えて、一号一号、号を重ねていくことの重みを実感するこの頃であるが、非力ながらも、小誌は、詩への絶望/希望を生きる、「険しい詩人の途」を歩んでいきたい。■長く連載されていた松本亮氏の「素顔の金子光晴」が今号で終わることになった。御愛読ありがとうございます。いずれ一冊の本にまとめられる予定だが、その前にスペシャル企画「金子光晴の足跡を訪ねる旅」を立ち上げた。詳しくは113ページをごらんください。なお、今号から、田中エリスさんの新連載が始まり、根石吉久氏のコラムがリニューアルされた。遅れている辻征夫氏の『詩の話をしよう』もまもなく刊行される。(お)





      
その夏を私が生きた

 聖ミン(キム ソンミン 

 

      
プラタナスからはすでに落ち葉が散っていた
お前も夏を終えたみたいだね
嫌いなのは地下鉄ファンスン駅の汗のにおいだった
追われるような足音
笑わない顔顔
肩でも当たったが最後 怖く燃え盛る視線たち
盲目的な速度と
ひとりに耽る感覚と
出口を探すやるせなさが吐いて出る
その床のにおい
私も地上に大きな宮殿を一つくらい築いてみたかった
道のない故郷の懐かしさで、地を耕して、土を耕して
風と雲と青い空に
微笑する 微笑することのできる脱北者のねぐら
これ以上 人前に出ず もう羨ましがって泣かない
魂の聖堂と競争してみたかった
今は願いだけを記憶した長い夏から逃亡する
蚊と戦い抜かなければならなかった夏の夜
下着を白旗のように振り回し
眠気と暑さと汗がにじんだ生の前に降伏しなければならなかった
夏は過ぎ、秋が来る
秋の落ち葉の片端を胸にしまう