予感
山崎純治
きっちり結んだ口元は
見えないことばをたくわえ
それがわずかに緩むとき
数千本の木が
一瞬
音もなく身体を通過する
細胞が軋んだ
森がざわっと揺れた
ティンパニの最強打を伴って
突然
五月の光の爆発の予感に
瞬間に消費され尽くすものとして
目を閉じれば
薄い皮膚の内側で
早くも鳥たちがざわめいている
笑いをおさえて呪文のように森が揺れる
みずみずしい舌が
ナチュラルホルンが伸びてくる
樹木よ、樹木
血管のすみずみで
数億の緑が一斉に膨らみ
鳴りわたっている
ぴんと皮膚は張りつめ
口の中を新緑でいっぱいにして
ハ長調の主和音が強奏され
鮮やかに転調するとき
あったことすべてが
いったん壊されなければならない
スイキンチカモクドッテンカイメイ
水金地火木土天海冥
素足で駆け抜け
鋭く密かに跳躍した朝
そうとしかありようのないほどの
単純なかたちと色彩で
新しい緑の性器の
薄い色が震えている
|