CUBE
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著者 川江 一二三(かわえ ひふみ)
装丁 大原信泉
発行 2006年11月11日
定価  
本体2200円+税
ISBN

ISBN4-434-08434-8 C0092 \2200E

判型 A5変型(148×170ミリ)112頁 並製
[収録詩篇]
第一夜/青と黒と 
第一夜から二夜/笑う血 

第二夜/イヴの寝台 
第二夜から三夜/トリック・オイスター 

第三夜/ベランダで萌え
第三夜から四夜/HARUSAI(春祭)

第四夜/ワルツの領域でひらく扉 
第四夜から五夜/破壊のうたが 

第五夜/合成してカラダ ひとつの鈍器に 
第五夜から六夜/合わせ鏡

第六夜/ジョージズ・キッチン 
第六夜から七夜/隣りの女たち

第七夜/回転する扉、あるいは
第七夜から八夜/夢遊病にて無灯火

第八夜/飼育 
第八夜から九夜/甘い生活

第九夜/十月は空中庭園の月
第九夜から十夜/渡り廊下

第十夜/屋根裏の魚
第十夜から十一夜/踊り場

第十一夜/春のたましい
第十一夜から十二夜/庭園

第十二夜/CUBE

【帯文章】より
「CUBE −−それは、夜の物語。そして、夜のダンス。」

現実も虚構も生者も死者も全てが滑り落ちてゆく中で、暗黒に吸い込まれてゆく CUBEのどの面が次に上を向くのかは、誰にもわからない。もちろん川江一二三にも。−−柴田千晶(栞「異形のものたちの記憶」)より)


第一夜/青と黒と

川江一二三

 

  (光の粒子が造形するこの花を わたしは知らなかった

視ることにおいて 恣意的な

ただの点である わたし

遅い夕餉のにおいと

接続が切断される音を 混交させ 

黒を越えた はるか 青の正面で

忌まわしく 裂く(咲く)

無数の瘢痕が 互いに転写され

新たな時計がぞぞぞと現れる


  (知覚の稜線を削りつつ 押し潰した声の濃度を測 
     らねばならない

壊れた培養器であるもの の 浅い眠り

夢の間引き 繰り返される 音節

瞑い雲母の果てしない ひび割れ うずたかく

濡れた描線がふるえて 困惑と

口腔に塗りたくった いつわりの謝罪 花首ごと

切り落とす 記憶のまぶたに ひら ひらいたり

閉じたりする 後ろから 透き通った魚  泡立つ

冷たい焔 炙られる 象牙色の影 くりぬいて

選択して 嵌めていく 無自覚なかけら 漂泊の旅

月はいよいよ蒼白 輝度を増して 石の柱 浮上

ひゅうと鳴く 舞踏病の犬 先割れた 舌 蠢いて

差し出された手に まるく 押印 しゅ しゅ よ

この肉を染め上げて 所有するのか。

  (再臨の拒否 及び 錯誤に能動性と情緒性を与え
    て相互自殺すること 

非在を証明して 花芯が舞って また戻ります

受付を設置 芳名帳に記入して また戻ります

採石場で探すべき石を見つけて また戻ります

素性を隠し 門番に酒を届けて また戻ります

雑音を色分けして 箱に詰めて また戻ります

うつほ船に乗せた女を降ろして また戻ります

巨大な蛇が道を阻んでいますが また戻ります

また戻ります ?落しそうなわたしの手を?んだら

  (痙攣する連なりの節目を定めて突破 得失の筋違い  
    を調合して 不味っ! 

清めの塩を使い果たした男

 南の島への海図を手渡して

  骨だらけの回廊に迷い出る


   砂の食卓に結界を張る女

    脂身をこそぎ 反魂香を焚き

     素知らぬ顔で 伝票を差し出す

      子どもは部屋から出てこなかった

  (送り状の行き先は絶えず書き換え、路地をあぶり出 
     して消えぬこと幸い

いびつな種はわたしにも在る ………