『 つながって 』
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著者 大澤恒保(おおさわ つねやす)
カバー写真 竹野雅夫
装丁 土田省三
発行 2005年8月21日
定価  
本体1800円+税
ISBN 4-434-06260-3  C0095 ¥1800E
判型 四六判 /174頁 上製糸かがり


【帯】
「生きて在る」ことの輝き『ひとりのひとを哀しむならば』(蓮如賞佳作)より六年、難病を抱えつつ生きる著者の、自己への鎮魂歌第二章はじまる

【跋】
まんま“普通な人”(ハルノ宵子氏)

「ただ、今、自分がここにある」

それだけが真実だと知っているから、大澤さんには独特の透明感があるのです。(跋より)


つながっていよう(部分)  大澤恒保

(略)お互いに行き来が困難になって以来、長いこと父とは電話でときおり声を確かめ合うだけだった。どちらからの電話でも、いつも「どう?」「ああ、まだつながってるよ」との会話で始まった。荒い呼吸音とともに父はいつもこう言った。まだこの世につながっているということだが、僕には「みんなとつながっているさ」という意味にも聞こえた。また、「つながっていような」と、電話を切る前にかならず彼は言った。僕は臨終の前の日に彼の手を握っている間、「つながっているぞ」と心中で繰り返していた。でも、翌朝、僕は臨終直後のその手に触れ、幽かな温もりだけを受けて、手を離した。かけた電話は当然つながらない。呼び出し音の代わりに「おかけになった番号は現在使用されていません」という声が返ってきた。僕は黙ったまま「ご苦労さん、ゆっくり休んで」と内心に念じて受話器を置いた。