『いがいが』
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著者 小林レント(こばやし れんと)
装丁 土田省三(Little Elephant Co)
発行 2004年8月26日
定価  
本体1500円+税
ISBN 4-434-04666-7 C0092 \1500E
判型 A5変型判 /84頁 並製糸かがり
[収録詩篇]
深く。噛んで 封筒に書かれた詩 雨壁に書かれた詩 瞳を隠す十二月 パゴダ印象 腫れた砂のねがい 色葉、贈り electro voice changer to the sky 小日向の墓に書かれた詩 いがいが  〜書くことなんてなくなったあとの挨拶〜

いまだけが100でそれいがいが、0
レント、二十歳。衝撃のデビュー


深く。噛んで  
小林レント


僕の手を噛んで

自分で傷つけるのには
深さ、に限界があって
だから
この手を
もっと深く。噛んで

さっき
コーヒーを飲んだ
深み、のある味とは ほど遠い
プラスティックの味
の中に
僕は何を求めていたのか
僕はスプーンで
コーヒーの深さ、を測った

その後で
僕は一匙すくったコーヒーを
眼に 入れた
眼と眼球のはざまで
コーヒーは揺れた
その不明瞭な深み、に
足をとられて

僕は一匙のコーヒーを助けようと
して
瞬いた が
コーヒーは
深み、に沈んで
多分
死んでいた

カップの深さ、と
コーヒーの深さ、は
悲しいほど違って
僕が
さっき測ったのは
どうやら
カップの深さ、で

僕が知りたかったのは
コーヒーの深さ……

僕はその後で
不明瞭なコーヒーの深み、に
沈んだ

僕は
何を求めていたのか


下降した
コーヒーの深さ、の底へ
僕は
コーヒーの底に沈んで
多分
何か叫んでいる

僕の手を噛んで

自分で傷つけるには
深さ、に限界があって
深み、に沈んだものを
すくいだせなくて

だから
この僕を
もっと
深く。噛んで

 

*この詩は、作者15歳の頃「詩の教室-- 高校生クラス」に掲載されたものです。
 なお、詩集『いがいが』収録詩篇は全て、十代のうちに書かれました。